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投稿日:2025/12/01

不動産売買の越境トラブル対策ガイド【境界確認から覚書取得まで】

不動産売買の越境トラブル対策ガイド【境界確認から覚書取得まで】

「不動産売買の途中で、越境トラブルと言われても正直よく分からない…」

「境界確認や覚書取得が大事と言われたけれど、何をどう確認すれば良いのか不安…」

 

不動産売買では、越境や境界確認の見落としが、後々大きなトラブルに発展することがあります。枝や塀、雨樋、地中配管などの越境を放置したまま契約してしまうと、思わぬ費用負担や近隣紛争の火種になりかねません。本記事では、不動産売買における越境トラブルの基本から、境界確認の進め方、売主・買主それぞれの注意点、さらに越境解消が難しい場合の覚書取得まで、実務に即してわかりやすく整理しました。「まず何から手を付ければよいか」を押さえながら読み進めていただくことで、越境リスクを事前に把握し、安心して売却・購入を進めるための具体的なイメージを持っていただけるはずです。

 

 

不動産売買で要注意の「越境トラブル」とは?

越境トラブルとは、不動産(土地・建物)の売買に際し、境界線を越えて他人の土地に物がはみ出してしまっているような問題を指します。たとえば、隣地から伸びてきた樹木の枝が自宅敷地に侵入していたり、建物の一部が隣地に越境していたりするケースです。不動産取引では、このような物理的・利用上の越境が明らかになると建築規制や手続、住宅ローン審査への影響などで売買に支障が生じる恐れがあります。とりわけ売買契約時には、当事者は契約履行の範囲を厳密に問われるため、プロの立場からも越境トラブルには慎重な対処が求められます。

 

「越境」「被越境」「境界線」など基本用語の整理

「越境」とは、土地の境界を物理的に越えて、建物の屋根やエアコン室外機、樹木の枝などが隣地に侵入している状態をいいます。これに対し、自分の敷地内に隣人の構造物や植栽がはみ出している場合を「被越境」と呼びます。また「境界線」とは、隣接する土地同士を分ける境目の線を指します。土地家屋調査士は敷地の「筆界」と「所有権界」を区別しますが、実務では登記上・地図上の境界または現地の境界杭・標識を目安とします。越境の有無は、これらの境界線との比較や測量図で慎重に確認します。

測量・境界の確定がいかに大切かはコチラ⇒実測売買か?公簿売買か?まずはここから!土地取引のトラブル回避法

 

日常生活では問題なくても、売買時には大きなリスクになる理由

日常的には小さな越境があっても隣人間で黙認されていれば問題にならないことが多いものです。しかし、売買契約という法的な取引に移行すると話は異なります。民法上は越境物件でも売買自体は可能ですが、売主が越境の事実を知りながら買主に告げなかった場合には「契約不適合責任」を問われる恐れがあります。具体的には、買主が計画した利用目的が越境のせいで実現できなくなれば、契約解除や損害賠償の対象となり得ます。また、登記簿や測量図と現地の状態が異なっていれば、信義則違反や重要事項説明義務違反となり、仲介業者も責任を問われる可能性があります。こうした理由から、越境は日常では軽視されても売買時には重大リスクとみなされるのです。

 

売主・買主・仲介会社それぞれに生じる責任と典型的トラブルパターン

越境問題は売主・買主・仲介会社のそれぞれに責任が生じる重要事項です。売主は越境の事実を知っている場合、売買前に買主へ必ず説明し、契約書にも明記する義務があります。説明を怠れば、売主は契約解除や損賠責任を負う可能性があります。買主側は自ら境界確認を行い、重要事項説明書や測量図で越境の有無をチェックする必要があります。仲介会社には境界紛争に関する情報提供義務や調査義務があり、越境を知りながら説明しなければ重要事項説明義務違反となり得ます。典型的トラブル例としては、(1)売主の隠していた越境を買主が契約直前に発見して契約解除になる、(2)建て替え時に越境が見つかってローンが実行されず延滞になる、などが挙げられます。これらを回避するには、売買開始前から売主・買主双方が境界問題の存在を認識し、書面合意など慎重な対応を行うことが不可欠です。

 

 

越境が生じやすいケースと境界確認の実務ポイント

越境は、都市部・地方を問わず思いがけず発生します。特に境界が不明瞭な土地では、植木や塀が越境しやすく、売買前の確認不足が取引後のトラブルにつながります。本章では、越境しやすい代表的なケースと、各ケースで境界確認や解消に向けた実務ポイントを解説します。

越境が生じやすいケースと境界確認の実務ポイント

 

樹木の枝葉・根の越境と庭木・生垣トラブル

隣地から伸びた庭木の枝葉が敷地内に越境するケースは住宅地で多い問題です。放置すると隣人関係を悪化させる原因となります。従来は隣人に枝の剪定を求める必要がありましたが、2023年の民法改正で催告後に一定の範囲で自己剪定が可能になりました。樹木の根については、従来どおり土地所有者が切除することができます。樹木トラブル対策としては、越境の可能性がある植栽は日頃から適度に剪定し、隣地所有者と事前に協議しておくことが重要です。

(竹木の枝の切除及び根の切取り)

民法第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に

切除しないとき。

二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

出典:e-GOV法令検索>民法第233条

 

塀・フェンス・ブロック・擁壁・建物本体の越境

塀やフェンス、擁壁は施工時期や材料厚みの違いで境界からずれが出やすく、越境トラブルになりがちです。たとえばブロック塀は法定境界より敷地内に積まれたまま放置されるケースが少なくありません。建物本体が越境していると建築基準法上も問題となり、売却時点で建築確認が取れなくなるリスクもあります。実務では、公図や確定測量図の境界線と現地の塀・擁壁位置を照合し、越境の疑いがあれば土地家屋調査士による確定測量を依頼するのが確実です。

 

地中配管・基礎・空中配線など「見えない越境」のリスク

目に見えない部分の越境も要注意です。例えば、隣地から自敷地へ水道管や下水管、通信ケーブルを引き込んでいるケースがあります。特に古い住宅地や相続した土地では、水道管が隣地を経由して敷地内に入っていることがあります。こうした配管越境があると、漏水や劣化時に思わぬ工事費用が発生するリスクがあります。また、電柱からの電線や電話線が越境していると、引き込み経路の変更が必要になる可能性もあります。実務では、水道局や通信事業者の図面で引込経路を確認し、境界付近の地中・空中配線状況を慎重に調べることが重要です。

地中配管・基礎・空中配線など「見えない越境」のリスク

 

公図・測量図・現地確認で押さえるべき境界確認チェックポイント

境界確認の第一歩は、公図や地積測量図などで境界線を把握することです。境界杭や鋲が設置されていない場合は、公図上の境界線や隣地の境界石、付近の道路との取合いなどを手がかりにします。土地家屋調査士による確定測量図があれば、実測データに基づく境界線がわかりますので、現地のフェンス・ブロック・擁壁の位置と照合します。必要なら専門家に依頼して境界確定測量を行い、越境部分の範囲を正式に確定させるのが安心です。

 

隣地所有者立会いと「境界確認書」の重要性と取得の流れ

境界を確定するには、隣地所有者の立会いのもとで測量を行い、境界ポイントを双方で確認することが効果的です。隣人立会いで境界を確認した記録を「筆界確認書」や「境界確認書」にまとめておくと、後日のトラブル防止に役立ちます。実務では土地家屋調査士が隣家の立会いを要請して、現地の境界杭などをチェックし、確定測量図を作成します。隣地所有者の同意のもとで作成された確定測量図があれば、その後の相続や売買を円滑に進めやすくなります。

 

 

越境が判明したときの法的枠組みと2023年民法改正の影響

売買検討中や売却後に越境が判明した場合、当事者はどのような権利義務を負うのでしょうか。本章では、越境に関する民法上の権利義務を整理し、2023年4月施行の民法改正(竹木の枝切取ルール変更)のポイントを解説します。

 

所有権と妨害排除請求権 ― どこまで撤去・移設を求められるのか

土地所有者は、隣地から越境した構造物に対し、所有権に基づく妨害排除請求権を行使できます。すなわち、隣家の屋根や塀、樹木などが越境していれば、その撤去や移設を求めることができます。撤去に要する費用は基本的に越境した側の負担です。所有権侵害は重い行為なので、時が経っても所有権に基づく請求権は消滅しません。

妨害排除請求権とは、土地の所有者が、他人の建物・塀・樹木の越境やゴミの不法投棄などによって所有権を妨げられている場合に、その妨害の除去(撤去・移設など)を法的に求めることができる権利です。一方で、たとえ相手が明らかに悪い場合でも、勝手に相手方の塀を壊したり、無断で越境物を処分したりする「自力救済」は原則として認められていません。実務では、まず相手方に是正を求め、それでも解決しない場合は、調停や裁判など正規の手続を通じて妨害排除を求める、という流れが基本になります。

 

契約不適合責任としての越境と、売主が負うべき責任範囲

売買契約では、越境物がある場合には「契約不適合」と見なされます。つまり、売主が越境を知りながら買主に告げなければ契約不適合責任を問われます。買主が予定どおりに土地利用できなくなれば契約解除や損害賠償の対象になり得ます。そのため売主は越境有無を事前調査し、重要事項説明書や契約書に明示する必要があります。なお、売買契約で責任範囲を調整する特約も例としてあります。たとえば「売主は越境責任を負わない」「越境是正義務は買主が承継する」といった特約を設けるケースがあります。こうした契約調整には限度があり、専門家の助言を得て慎重に内容を定めることが必要です。

 

長年放置された越境と「時効」の考え方

越境物を長期間放置していると、民法上の時効が問題になります。不法占有が10年以上続くと、所有者はその部分の返還を請求できなくなります(民法第162条)。さらに占有が20年以上になると、越境した側が所有権を取得できる可能性も生じます。実例として、境界誤認で長年塀を越境使用された結果、本来の所有者が土地の一部を失った例も報告されています。このように、越境物を放置すると時効取得のリスクがあるため、早期に是正措置を検討すべきです。

(所有権の取得時効)

民法第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

出典:e-GOV法令検索>民法第162条

 

2023年民法改正(竹木の枝の切取りルール変更)のポイント整理

2023年4月施行の民法改正(233条の3)では、隣家の竹木の枝が越境した場合の切除ルールが明確になりました。改正前は越境枝の切除には隣人に剪定してもらうか、裁判所の手続が必要でしたが、新法では以下の場合に土地所有者が自ら切り取ることを認めています。①隣地所有者に枝の切除を催告し、相当期間(目安2週間程度)経過後も放置されている場合②隣地所有者が所在不明の場合 ③越境で急迫の事情が生じている場合。これらの場合には隣家に立入って枝を切ることができ、かかった費用は隣人に請求できます。この改正により、従来困難だった越境樹木問題の解決方法が拡大しました。

不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント

出典:法務省>令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイントより一部抜粋

 

改正民法が不動産売買の現場と越境トラブルに与える実務的影響

改正民法により、越境枝問題の解決ハードルは下がりました。不動産業界では「裁判を起こす前に即対応できる利点が大きい」と評価されています。具体的には、2週間程度の催告後にこちらで枝を剪定できるため、売買交渉の負担が軽減します。朝廷や裁判で数年待つより、迅速な対処ができるメリットがあります。一方で、越境根の撤去義務は従来どおり隣地所有者にあることや、作業時の近隣配慮など注意点もあるため、改正内容を正しく理解しておく必要があります。

 

 

売主側の対応:越境解消とリスクを抑えた不動産売却の進め方

越境がある物件を売却する際は、売主が事前に現状を把握し、可能な限り越境を解消しておくことが重要です。本章では、売却前の調査・専門家相談、工事や合意形成、契約特約設定など、売主が取るべき対応策を詳しく解説します。

 

売却前に行うべき現状把握と専門家(測量士・弁護士等)への相談

売主は売却前に現地調査を徹底し、境界状況を正確に把握すべきです。土地家屋調査士に依頼し、公図と現地を突合して確定測量図を作成するのが推奨されます。特に相続した実家などでは、先代から越境の事実が伝わっていないことがあります。隣地の水道引込管や下水管が敷地内を通っているケースも少なくありません。そのため、水道局や法務局の図面・資料で引込経路を確認し、専門家に相談して不明点をつぶしておきましょう。

測量図

※松屋不動産販売株式会社では契約前に対象不動産の仮測量を実施して、面積の相違、越境の確認をしております。

 

工事による越境解消・移設・剪定を行う場合の注意点

売主が越境物の撤去や移設、剪定を行う場合、隣地への配慮と法令順守を徹底します。隣地植栽を切る際は新法に沿って必要な範囲で行えますが、事前に隣地所有者に説明・承諾を求めるのが望ましいです。擁壁・ブロック塀を撤去する際は、道路や上下水道、電線などに影響がないか確認し、関係機関への届出(許可含む)を行います。作業費用は撤去義務のある側が負担する原則ですが、隣人と協議して費用負担を明確にしておくとトラブルを防げます。また工事後は境界杭を損傷していないか確認し、境界標を再設置するなどして完了を検査してください。

 

規制地域内で(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化が著しいものを除く)以外もの)を生じさせる行為には盛土規制法の許可が必要⇒2025年の盛土規制法の影響と不動産購入の正しい進め方を解説

 

隣地所有者との協議と合意形成をスムーズに進めるコミュニケーション術

越境問題を解決するには隣地所有者との信頼関係が欠かせません。事前に事情を丁寧に説明し、相手の意見にも耳を傾けましょう。例えば、越境する植栽の剪定であれば工事前に「落葉掃除を減らすために枝を切ります」と一声かける、擁壁補修なら工事計画を説明書や図面で提示するといった工夫が有効です。口頭で同意を得た後は、取り決めを書面(合意書・覚書)にしておけば万一の際に証拠になります。冷静かつ誠実な対応が、隣人トラブルの発生・長期化を防ぐ最大のポイントです。

 

越境を解消できない場合の価格調整・契約条件(特約)によるリスクコントロール

どうしても越境を解消できない場合は、売主は価格や契約特約でリスクをコントロールします。具体的には越境分だけ価格を割り引いたり、契約不適合責任の免除や越境責任免除の特約を設けたりします。例えば「売主は越境に起因する責任を負わない」「越境撤去義務は買主が承継する」などと契約書に明記し、買主にリスクを了承してもらいます。ただし、あまりに買主不利な特約は無効とされる恐れがありますので、専門家の助言を得て慎重に特約内容を定めましょう。

 

 

買主側の対応:購入前後に確認すべき越境・境界・融資への影響

買主にとっても越境は重要なチェック項目です。内見・申込・契約の各段階で境界を確認し、発覚時には迅速に対処することが求められます。本章では、購入前の確認ポイントから住宅ローン審査時まで、買主が行うべき越境・境界対応を整理します。

 

内見・申込・契約前に買主がチェックすべき越境・境界のポイント

買主は内見時点で境界杭や塀、擁壁の位置に注意しましょう。境界杭・鋲が見当たらない場合は仲介会社に確認し、図面も確認します。測量図面や重要事項説明書を入手し、売主や仲介者に越境の有無を積極的に質問しましょう。疑問があれば、売主から越境の覚書の提出を求めたり、契約前に売主負担で境界確定測量を実施する交渉をすることも可能です。これらの確認を怠ると、購入後に越境問題で思わぬ損害を被るリスクが高くなります。

 

重要事項説明書・売買契約書で越境に関する記載を読むときの視点

重要事項説明書では物件概要の備考欄や特記事項に越境情報がないか確認します。契約書にも越境物の扱いや覚書の有無に関する条項が書かれていないかチェックしましょう。売主が越境の存在を事前説明していれば、これらの書類にその記載があります。記載漏れや曖昧さがあれば契約前に仲介者に説明を求め、越境是正を契約条件にしたり覚書を添付したりする交渉を検討します。特に代金内訳や特約条項の細部はよく確認し、契約解除条項の範囲も把握しておくことが大切です。

 

決済前後に越境が判明した場合の対応フローと交渉の進め方

契約締結後・決済前に越境が判明した場合、買主は売主に越境解消を要求できます。具体的には、越境是正後の引渡しや代金減額、あるいは契約解除が争点になります。売主または隣地所有者が是正に応じない場合は、覚書取得や代金減額、契約の解除といった解決策も検討します。決済後に越境が分かったときは売主の契約不適合責任に基づき損害賠償や解除交渉を行います。実務上は、まず売主に状況説明を求め、修正を約束しない場合は価格交渉や解除交渉を弁護士などと協議しながら進めます。住宅ローン契約後に越境が判明すると銀行への報告と再審査が必要になることもあります。

 

住宅ローン審査・担保評価に与える影響と金融機関との調整方法

越境がある物件では金融機関は担保価値を厳しく評価します。越境物件では融資額が減額されたり、越境是正を融資条件とされたりすることがあります。特に建物本体の越境は再建築を制限されるため審査が厳しくなります。そのため購入検討段階から銀行に越境状況を正直に説明し、図面や覚書などの資料を提示して対策を講じましょう。審査で問題が指摘されたら、代金減額や越境記録の整備・特約付与などで条件調整を行うのが一般的です。

 

 

解消できない越境と「越境の覚書」・覚書取得のポイント

どうしても越境を解消できない場合、売主・買主は「越境承諾書」や「越境使用承諾書」を活用してリスク管理します。本章では、覚書・承諾書の意義、取得すべきか否かの判断基準、そして覚書に盛り込むべき内容などについて解説します。

 

「越境の覚書」「越境使用承諾書」とは何か ― 不動産売買における位置づけ

「越境承諾書」「越境使用承諾書」とは、隣地所有者が現状の越境を認めて使用を許可した書面です。例えば庭木の枝が隣地に越境している場合、隣人に承諾書に署名してもらっておけば、買主に引き渡した後も当該越境が合法的に許容されます。類似の「覚書・協定書」は、越境物の将来的な移設義務や使用条件、撤去時期などを明文化した合意書です。売買時にこれらの書面を揃えておけば、将来のトラブル防止につながります。

 

覚書取得が有効なケース・避けるべきケースの見極め方

覚書は、越境が軽微で現状利用に大きな支障がない場合や、隣人と良好な関係を保てる場合に有効です。たとえば細い杭や垣根の越境なら覚書で対応できます。一方、建物や擁壁のように大規模な構造物の越境は覚書では根本解決にならず、分筆や撤去協議が必要になるケースが多いです。覚書を交わす前に、越境物の規模・期間・影響範囲を精査し、覚書で対応可能かどうか慎重に判断しましょう。

 

覚書に盛り込むべき条項(期間・費用負担・撤去条件・承継など)の考え方

覚書には越境状態をどう扱うか具体的に定めます。記載例としては、現状の越境範囲とその承認内容、将来いつまで越境を許容するか(有効期限や撤去予定時期)、越境物の管理・維持・撤去費用負担の所在、撤去方法などです。また、越境状態が隣地の所有者変更後も続くことを踏まえ、次の所有者にも覚書が効力を持つ旨の承継条項を入れておくと安心です。このように覚書は具体的・相互合意が明確になるよう作成します。

越境に関する覚書

 

公正証書化・図面添付・登記など、将来のトラブルを防ぐための工夫

覚書を確実な合意にするため、公正証書化や確定測量図の添付・登記を検討します。公正証書にすれば第三者対抗力が高まり、次の所有者に覚書内容を主張しやすくなります。確定測量図を添付して図面上に境界・越境を明示すれば、将来の誤解を防ぐ証拠となります。こうした手間を惜しまず記録を残すことが、長期的に越境トラブルを回避する秘訣です。なお、公正証書化するかどうかはトラブルの強度によります。ほとんどのケースはそこまで至りません。

 

 

ケーススタディと予防策:実例から学ぶ越境トラブルのリアル

実例から発生原因と解決策を学び、予防策の重要性を理解しましょう。本節では枝越境、塀越境、水道管越境など代表的なケースを取り上げ、それぞれの対応ポイントと教訓を紹介します。

 

枝葉の越境を放置して近隣関係が悪化したケース

ある家では売却準備中に庭木の枝が隣家に越境していることが発覚しました。隣家はずっと落葉掃除に不満で、事前説明のなかった売主に激怒しました。結果的に隣家は枝切除費用を請求し、関係が悪化してしまいました。この事例は、越境枝でも事前対応を怠ると信頼を損なうことを示しています。

 

ブロック塀・擁壁の越境で建替え・住宅ローンが滞ったケース

買主Bが購入した古い戸建では、わずかに境界を越えて隣家のブロック塀と擁壁が食い込んでいました。Bが家を建て替えようとしたところ、越境が理由で建築確認がおりずローンも保留に。銀行から「再建築不可の疑い」を指摘され、融資見直しが必要になりました。最終的には隣家と塀のやり直しを協議し、費用分を価格調整することで問題は解決。満額のローンが実行され、建て替えが可能になりました。この例は、わずかな越境でも建築・融資計画に大きく影響することを示しています。

 

地中配管の越境が売買直前に発覚したケースと対応の実際

土地を購入予定だったCは、契約直前の確認で隣地の下水道管が自分の最終マスに接続されているのに気づきました。売主からの説明がなかったためCは契約を保留し問題解決を要求。仲介会社との協議の結果、Cは購入後に上下水道経路を独立させる工事を条件に合意し、売買価格を値下げしてもらいました。工事には数十万円の追加費用がかかりましたが、Cは安心して取引を進められました。この事例から、契約前の図面確認が重要であることがわかります。

 

越境の覚書取得と価格調整でスムーズに売買できた成功事例

D家では庭の植栽が隣地に越境していることが知られていました。売却を担当した会社Eは隣人Fに事前説明し、越境覚書を作成しました。Fとの覚書では「将来建て替え時もD敷地内で植栽を維持し、撤去後は自己負担で自己の敷地に控えて再植する」ことを定めました。

その結果、買主は安心して交渉に応じ、予定通りの価格で取引が成立しました。この成功例からは、越境問題も誠実な対応で円滑に解決できることがわかります。

 

相続した実家・空き家・リフォーム前にできる越境トラブル予防チェックリスト

相続や空き家の売却前には、次のような点をチェックしておきましょう。まず、固定資産税図や公図で境界位置を確認し、境界杭の有無を調べます。隣地とのフェンス・塀の位置を目視し、植栽や小屋など越境しそうなものを洗い出します。水道・下水・電気の引込経路は給水装置図や管路図で確認し、越境がないか確かめます。隣家が古い場合は挨拶して境界の了承を取っておくのも有効です。これらの事前点検で多くの越境リスクを未然に防ぐことができます。

 

 

よくある質問(FAQ)と松屋不動産販売株式会社 代表取締役:佐伯慶智からのメッセージ

最後に、売主様・買主様からよく寄せられる越境・境界トラブルに関する質問へのQ&Aと、松屋不動産販売(株)代表取締役 佐伯慶智からのメッセージを掲載します。

 

Q&A:売主からよく寄せられる「越境・境界確認」に関する質問

Q1: 隣地に越境があるかどうか、誰に相談すればいいですか?

A: 土地家屋調査士に現況測量を依頼し、公図や境界杭で境界を調べましょう。隣家の立会いで現地境界を確認し、配管類も専門家にチェックしてもらうと安心です。

 

Q2: 境界杭が抜けていたり複数の測量図が存在したりする場合、どれが正しいか分かりません。

A: 境界杭・鋲の設置状況と公図や測量図を総合的に見比べ、確定測量図があればそれを優先します。不明点は土地家屋調査士に相談し、筆界確認書の作成も検討してください。

 

Q3: 越境が見つかった場合、すぐ売却をあきらめるべきでしょうか?

A: 越境の内容・程度にもよりますが、多くの場合は事前対応や価格調整で解決できます。絶対的に無理なケースは稀なので、契約前に説明して覚書を取るなどして取引を進めましょう。

 

Q&A:買主からよく寄せられる「越境トラブル・住宅ローンへの影響」に関する質問

Q1: 内見時に境界杭や越境物が見当たりません。不安なのですがどうすれば?

A: 現地で杭や境界標を探し、重要事項説明書に越境記載がないか確認しましょう。契約前に仲介業者から図面を入手し、測量実施の有無もチェックしてください。それでも心配であれば、売主の責任と負担による確定測量をお願いして、

売主が拒否した場合は、自費で確定測量をおこなうと良いでしょう。

 

Q2: 契約後に隣家の樹木が越境していると分かった場合、住宅ローンはどうなりますか?

A: 銀行は越境を担保価値に厳しく見るため、融資条件が再調整される可能性があります。とは言え、枝葉が少し出ている程度で融資条件が変わることはありませんが、大きな樹木の半分程度が越境しているとなると話は別です。越境撤去が条件なら伐採完了後にローン実行されます。審査中に越境が判明したら銀行に報告し、対処を相談しましょう。

 

Q3: 売主から越境の説明がなく、引渡し後にトラブルになった場合どうすればいいですか?

A: 売主の契約不適合責任を追及できる可能性があります。契約書・重要事項説明書に越境記載がないか再確認し、土地利用制限が生じた場合は損害賠償や契約解除も検討します。その上で隣地所有者とも協議し、覚書締結や価格交渉で合意を目指しましょう。

 

Q&A:越境解消が難しい場合の「越境の覚書」・将来の建替えに関する質問

Q1: 隣家に越境樹木の剪定を頼んでも応じてくれません。どうすればよいですか?

A: 2023年改正民法で、催告後(2週間程度)に自ら剪定できるようになりました。応じない場合は作業を始め、かかった費用は隣家に請求できます。ですが、作業後も近隣への配慮は忘れないようにしましょう。

 

Q2: 売主から越境覚書を提示された場合、注意点は何ですか?

A: 覚書には「現況越境の承認」「撤去・是正の条件(時期・費用負担)」「次回所有者への承継」が明記されているかを確認しましょう。内容に不備・不明点があればその場で確認し、必要なら弁護士等に相談して決めることが大切です。

 

Q&A:相続した実家や空き家に越境がある場合の売却相談

Q1: 相続した空き家に越境があるかもしれません。対策は?

A: 相続土地でも権利義務は通常通りです。越境を聞いていない場合でも測量や役所資料で現況を確認し、必要なら専門家に相談しましょう。境界不確定時は隣家と話し合い、越境の有無を確かめることが第一歩です。売却時は測量や覚書で状況を整理し、価格設定に反映させましょう。

 

松屋不動産販売株式会社 代表取締役・佐伯慶智からのメッセージ

今回は、越境トラブル対策のポイントを説明させてもらいました。売主・買主双方が安心できる取引には、早い段階で境界・越境問題を洗い出し、専門家の力を借りて適切な対策を講じることが不可欠です。たとえば境界が不明瞭な敷地では事前に土地家屋調査士に依頼し、隣家との話し合いに時間をかけるなど慎重で誠実な対応が信頼につながります。当社ではお客様の資産を守るため越境を含むトラブルの未然防止に全力を尽くしています。境界・越境に不安があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。豊富な経験と専門知識で、安心・安全な取引をサポートいたします。

 

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